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東京地方裁判所 平成5年(ワ)9539号 判決

主文

一  被告は原告に対し、平成四年一二月から毎月二五日限り金四万〇一一〇円宛及びこれに対する各月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、平成四年一二月から毎月二五日限り金一八万五〇〇〇円宛及びこれに対する各月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告に対し、別紙第二物件目録一記載の物件を撤去し、かつ、平成五年一月一日から右物件撤去済みまで月金六万円の割合による金員を支払え。

四  被告は原告に対し、別紙第二物件目録二記載の物件を撤去し、かつ、平成五年一月一日から右物件撤去済みまで月金二万円の割合による金員を支払え。

五  被告が、別紙第一物件目録一記載の土地につき、専用使用権を有しないことを確認する。

六  被告は原告に対し、別紙第一物件目録一記載の土地に対する駐車場としての使用を差止め、かつ、平成五年一月一日から右差止済みまで月金一〇万円の割合による金員を支払え。

七  原告のその余の請求を棄却する。

八  訴訟費用は、被告の負担とする。

九  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

一  被告は原告に対し、平成四年一二月から毎月二五日限り金四万〇一一〇円宛及びこれに対する各支払日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、平成四年一二月から毎月二五日限り金一八万五〇〇〇円宛及びこれに対する各支払日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  主文第三ないし六項と同旨

第二  事案の概要

本件は、高島平マンション管理組合である原告が組合員である被告に対し、組合規約及び右規約に基づく総会決議に基づき、以下のとおり、<1>及び<2>の金員の支払、<3>及び<4>の物件の撤去と平成五年一月一日から撤去済みまでの遅延損害金の支払、<5>の駐車場の専用使用権の不存在の確認、<6>の物件の差止めと平成五年一月一日から差止済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案である。

<1>  管理費・修繕積立金の値上げ分として平成四年一二月から毎月二五日限り月額合計四万〇一一〇円宛及びこれに対する各支払日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払

<2>ア  第一物件目録二記載の土地の駐車場としての使用料・月額一〇万円

イ  屋上塔屋外壁のネオン看板設置による同部分の使用料・月額四万円

ウ  屋上のクーリングタワー設置による同部分の使用料・月額一万円

エ  二階西側屋上の水槽設置による同部分の使用料・月額二万円

オ  北東側非常階段の二、三、四階踊り場の看板設置による同部分の使用料月額一万五〇〇〇円

の合計使用料として平成四年一二月から毎月二五日限り月額一八万五〇〇〇円宛及びこれに対する各支払日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払

<3>  第三物件目録一記載の物件の撤去及び平成五年一月一日から右物件撤去済みまでの使用損害金として月額六万円の割合による金員の支払

<4>  第二物件目録二記載の物件の撤去及び平成五年一月一日から右物件撤去済みまでの使用損害金として月額二万円の割合による金員の支払

<5>  第一物件目録一記載の土地について被告の専用使用権不存在の確認

<6>  右土地を被告が駐車場として使用することの差止め及び平成五年一月一日から右差止済みまでの使用損害金として月額一〇万円の割合による金員の支払

一  争いのない事実等

1 原告は、平成元年一〇月二九日、建物の区分所有等に関する法律第三条に基づき、別紙第三物件目録「(一棟の建物の表示)」欄記載の建物(以下「本件マンション」という。)の全区分所有者による管理集会の決議により設定された管理規約第六条により同日設立された、本件マンションの区分所有者全員により構成されている管理組合である。原告は、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が規約により規定されており、権利能力なき社団である。

被告は、別紙第三物件目録一ないし三記載の建物を区分所有しており、原告の組合員である。

2(1) 原告は、平成四年一〇月一八日開催の平成四年度定期総会において、出席組合員と議決権総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三四人、総持分で二〇六三・九一七平方メートル中の一六六一・七〇五平方メートル)により、管理費と修繕積立金を次のとおり値上げすることを決議した。

<1>  値上げ額

管理費・一平方メートル当たり月額一五〇円から二〇〇円に

修繕積立金・一平方メートル当たり月額五〇円から一〇〇円に

<2>  実施時期 平成五年一月一日から

<3>  支払期日 毎月二五日限リ翌月分払

(2) 右決議により、被告が平成五年一月一日から支払うべき管理費・修繕積立金の総額及び値上額は次のとおりになつた。

<1>  管理費

ア  一階店舗(第三物件目録一記載の建物)分

総額七万〇四六〇円、値上げ分一万七六一〇円

イ  二〇五号室 (第三物件目録三記載の建物)分

総額五七〇〇円、値上げ分一三五〇円

ウ  二〇六号室 (第三物件目録二記載の建物)分

総額四三〇〇円、値上げ分一〇七〇円

<2>  修繕積立金

ア  一階店舗分

総額三万五二三〇円、値上げ分一万七六一〇円

イ  二〇五号室分

総額二八五〇円、値上げ分一四〇〇円

ウ  二〇六号室分

総額二一五〇円、値上げ分一〇七〇円

3 しかるに、被告は、管理費、修繕積立金のうち値上げ分合計月額四万〇一一〇円を支払わず、今後も支払わない旨明言している。

4 被告は、昭和四八年本件マンションの区分建物の売買の際、各買主との間で、「本建物のうち広告物その他の施設設置のための外壁の一部、屋上、塔屋、外壁の使用権は被告が保有するものとする。敷地の使用権は被告が保有するものとする。」との条項について合意し、さらに規約(以下「旧規約」という。)においても右売買契約と同一内容の合意をした。

5 原告は、平成元年一〇月二九日、出席組合員と議決総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三三人、総持分で二〇六三・九一七平方メートル中の一六〇九・一四五平方メートル)により、次のとおりの内容を含む規約を設定する決議をした(以下「新規約」という。)

(1) 店舗部分の区分所有者は、本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁及び屋上の一部と塔屋外壁、敷地の専用使用権を有することを承認する。

(2) 右専用使用権を有しているものは、総会の決定があつた場合は、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。

(3) 右専用使用部分の変更については、管理組合の承認が必要である。また総会の決定によつて専用使用部分を変更することができる。

(4)ア 区分所有者及び同居者は、区分所有者全体の利益保持、管理者の管理遂行、環境維持のために、次の行為をしてはならない。

<1>  共用部分に私物を置くこと

<2>  その他居住上他に迷惑を及ぼす行為

イ  区分所有者及び同居者は故意又は過失により前項に違反して本建物の区分所有者、第三者に対し損害を与えた場合には、その賠償の責に任じなければならない。

(5) 区分所有者は、敷地及び共用部分等をそれぞれの通常の用途に従つて使用しなければならない。

(6) 規約に定めのない事項については区分所有法その他の法令の定めるところにより、規約、法令のいずれにも定めのない事項については総会の決議により定める。

6 別紙第一物件目録一ないし三記載の土地を含む同目録表題部の土地及び本件マンションの屋上、外壁、塔屋等の共用部分は、区分所有者全員がその専用部分の床面積割合による持分割合で共有している。

7(1) 被告は、昭和四八年以降本件マンションの敷地の一部である第一物件目録一、二記載の土地を被告と一階店舗の来客用の駐車場として専用使用している。

(2) 被告は、昭和四八年以降別紙図面二に図示する本件マンション屋上の塔屋の東、西、南、北に面した各外壁にそれぞれ縦二・五メートル、横五・五メートルの各「サウナ」と表示したネオン看板各一枚合計四枚を設置して、右塔屋外壁を専用使用している。

(3) 被告は、昭和四八年以降別紙図面三に図示するとおり本件マンション屋上に、サウナ用クーリングタワーを設置して右屋上部分を専用使用している。

(4) 被告は、昭和四八年以降別紙図面二に図示する本件マンション二階西側の屋上(二〇六号室の屋上)に、サウナ用水槽二個を設置して、右三階屋上を専用使用している。

(5) 被告は、遅くとも平成四年以降別紙図面二に図示する本件マンション北東角に存する非常階段二、三、四階の各踊り場東側に支柱を設置し、縦八メートル、横〇・八メートル、厚さ〇・三メートルの両面にそれぞれ「サウナ西台」「コインランドリー・ウエスト」「理容・ハイツ」と表示する看板を設置して、右部分を専用使用している。

(6) 被告は、昭和五八年以降本件マンションの敷地の一部である第一物件目録三記載の土地に、第二物件目録一記載のボイラー、石油タンク、クーリングタワーを設置して、右土地部分を専用使用している。

(7) 被告は、昭和五八年以降前号の土地に第二物件目録二記載のコインランドリー用水槽等を設置して、右土地部分を専用使用している。

8 原告は、平成四年一〇月一八日開催の平成四年度定期総会において、出席組合員と議決総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三四人、総持分で二〇六三・九一七平方メートル中の一六六一・七〇五平方メートル)により、被告の右専用使用権について次のとおり決議した(以下「本件決議」という。)。

(1) 第一物件目録記載の土地の駐車場(四台分)部分は、管理用自動車、緊急用自動車の駐車場及び区分所有者全員の自転車置場にするために、平成四年一二月三一日をもつて、被告の右駐車場部分の専用使用権を消滅させ、被告は平成五年一月一日以降右駐車場の専用使用をしないこととし、かつ、右使用差止めに至るまで被告は使用損害金として月額一〇万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(2) 同目録二記載の土地の駐車場(四台分)部分については、被告の専用使用権を認めるが、被告は平成五年一月一日以降右使用料として月額一〇万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(3) 被告が別紙図面二に図示する塔屋の東、西、南、北に面した各外壁にそれぞれ縦二・五メートル、横五・五メートルの各「サウナ」と表示したネオン看板各一枚合計四枚を設置して被告が右塔屋外壁を専用使用することは認めるが、被告は平成五年一月一日以降右使用料として月額四万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(4) 被告が別紙図面三に図示する本件マンション屋上に、サウナ用クーリングタワーを設置して右屋上部分を専用使用することを認めるが、被告は右使用料として月額一万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(5) 被告が別紙図面二に図示する本件マンション二階西側の屋上(二〇六号室の屋上)に、サウナ用水槽二個を設置して、右三階屋上を専用使用していることは認めるが、被告は右使用料として月額二万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(6) 被告が別紙図面二に図示する本件マンション北東角に存する非常階段二、三、四階の各踊り場東側に支柱を設置し、縦八メートル、横〇・八メートル、厚さ〇・三メートルの両面にそれぞれ「サウナ西台」「コインランドリー・ウエスト」「理容・ハイツ」と表示する看板を設置して、右部分を専用使用することは認めるが、被告は右使用料として月額一万五〇〇〇円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(7) 被告は、本件マンションの敷地の一部である第一物件目録三記載の土地上に設置した第二物件目録一記載のボイラー・石油タンク・クーリングタワーを平成四年一二月三一日限り撤去し、右撤去に至るまで使用損害金として物件一個につき月額二万円合計六万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

(8) 被告は、前号の土地に設置した第二物件目録二記載のコインランドリー用水槽等を平成四年一二月三一日限り撤去し、右撤去に至るまで使用損害金として月額二万円を毎月二五日限り翌月分を原告に支払う。

9 しかるに、被告は、本件決議に従わず、平成五年一月一日以降も右専用使用を継続している上、右使用料、使用損害金を支払わず、今後も右決定には従わない旨明言している。

二 争点

1 旧規約から新規約に改定した手続に違法があるか。

(1)(被告の主張)

旧規約には、規約を変更するには同規約に定めた手続にしたがつてなされなければならない旨の規定がある。しかるに、原告は、この手続によらずに規約を変更して新規約を設定したのであつて、このような新規約は無効である。

(2)(原告の主張)

旧規約の廃止、新規約の設定は、昭和五九年一月一日施行の建物の区分所有等に関する法律第三一条一項に基づき、平成元年一〇月二九日になされたものであつて、何ら違法ではない。

2 別紙第一物件目録三記載の土地上にある物件につき被告に専用使用権があるか。

(1)(被告の主張)

被告は、旧規約に基づき右土地部分につき専用使用権を有する。

(2)(原告の主張)

右土地部分は、本来管理人室へ通じる裏通路として設けられたものであり、防災上も右土地部分に右物件を設置することは許されない。旧規約によつても右土地部分は被告が保有する専用使用権の対象たる「敷地」に含まれないというべきである。したがつて、被告は右土地部分上に右物件を存置する権利はない。

3 新規約及びこれに基づく本件決議は被告の権利に特別の影響を及ぼすものか。

(1)(被告の主張)

被告は、旧規約に基づき、本件建物のうち広告物その他の施設の設置のため外壁の一部、屋上及び塔屋外壁及び敷地につき無償の専用使用権を有するものである。しかるに、旧規約を変更した新規約と新規約に基づく本件決議は、被告の外壁等の専用使用権を有償化し、かつ、敷地の専用使用権を剥奪するものであつて、被告の右専用使用権に特別の影響を及ぼすものであるから、被告の承諾を要するところ、被告はこれを承諾していない。したがつて、新規約は無効である。

(2)(原告の主張)

旧規約を新規約に変更すること及び新規約に基づき本件決議をすることは、以下の述べるとおり、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではないから、被告の承諾を得なくても有効である。

<1>  新規約は、旧規約に基づく被告の専用使用権の継続を認めている。

もつとも、新規約は、「専用使用部分の変更」については管理組合の承認を得るものとし、また総会の決定によつて専用使用部分の変更ができる旨の条項を設定したが、これは本件マンションの外観上又は維持管理上不都合が生じる場合に、使用部分の変更を管理組合の承認にかからしめ、又は総会決議によつて使用部分の変更を請求できるとしたものであつて合理的な条項であり、しかも被告の右専用使用権自体を失わせるものではないから、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

<2>  新規約では、総会の決定があつた場合には、管理組合に「専用使用料」を納入しなければならないことになつたが、これも被告の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

すなわち、被告は、旧規約下において専用使用料を一回も支払わなかつたが、旧規約によつても無償で専用使用できるとの定めはなく、有償か無償かはつきりした定めがなかつたのであつて、この点については規約は不備であつた。また、被告は右専用使用部分を専用するについて当初権利金・専用使用料等名目のいかんを問わず金銭を支払つたり、また専用使用部分の公租公課の全額を負担するなど特別な負担をしたことが一切なく、かえつて、他の区分所有者が被告の専用使用部分の公租公課・維持管理費を共有持分によつて平等に負担してきた。被告が無償で専用使用できるとする合理的根拠は全くないのであつて、専用使用料を納入しなければならないとの定めは、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

<3>  本件決議は(1)は、被告が駐車場として専用使用している部分のうち、四台分の駐車場部分を管理用自動車、緊急自動車の駐車場、自転車置場として他の区分所有者の使用に供するために被告の専用使用権を消滅させることを内容とするものである。

これは、本件マンションの敷地のうち空地となつている部分は、マンション南側及び南西側部分すなわち被告が駐車場として使用している部分のみであるところ、右空地はいずれも被告が駐車場として専用使用している。このため、他の区分所有者が利用できる駐車場は全くなく、一台の自転車を置く場もない。他の駐車場の外の駐車場を借り、また自転車は防災上問題があることを承知しながらマンション内に持ち込み廊下に置いている状態である。また、管理や補修のために業者が呼んでも車を置くところがなく、路上駐車せざるを得ない。このような不都合を解消するために原告は再三被告に右四台分の駐車場部分を管理組合に返還するように求めたが、被告はこれを拒否してきた。

したがつて、本件決議は、区分所有者全体にとつて高度の必要性があつてなされた決議であり、他方被告は右駐車場を失つてもマンション南側に四台分の駐車場が残るのであるから、被告に不利益があるとしてもいまだ特別の影響を及ぼすときには当たらないというべきである。

<4>  本件決議(2)ないし(6)は、いずれも被告の専用使用を認めた上で使用料納入についての決議であり、かつその額も社会通念上相当な額というべきであるから、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(規約改定手続に違法があるか)について

被告は、旧規約を変更するには、旧規約に定めた手続に従つてなされなければならないところ、原告が旧規約を新規約に変更する際に旧規約に定めた手続をとつていないから、新規約は無効である旨主張する。

たしかに、旧規約は第二一条において、「規約の改廃は区分所有者全員の書面による合意により行う」と規定している。

しかし、昭和五九年一月一日施行の建物の区分所有等に関する法律第三一条一項は、「規約の改定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数による集会の決議によつてする」と規定しており、右条項に反する旧規約第二一条は同法の施行によつてその効力を失つたものである。そして、原告が旧規約から新規約に変更したのは、同法同条の規定に基づくものであるから、手続上何ら違法はない。

したがつて、被告の右主張は失当である。

二  争点2(別紙第一物件目録三記載の土地上にある物件につき被告に専用使用権があるか)について

被告は、旧規約に基づき右土地部分につき専用使用権を有すると主張する。

しかし、《証拠略》によれば、被告は、昭和五八年ころ右土地部分に別紙第二物件目録一及び二記載の物件を設置したが、もともと右土地部分は、本来管理人室へ通じる裏通路として設けられたものであり、通路としてのみ使用されるべきものであること、右土地部分に右物件が設置されたことにより通行に支障が生じており防災上も危険であること、右土地部分の下には下水管、電話線が埋設されており、その修繕や管理に支障が生じていることが認められる。そうすると、旧規約によつても右土地部分は被告が保有する専用使用権の対象たる「敷地」に含まれない。したがつて、被告は右土地上に右物件を存置する専用使用権はないというべきである。

三  争点3(新規約及び本件決議が被告の権利に特別の影響を及ぼすか)について

1  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件マンションの各区分建物の買受人は、いずれも被告から売買契約の代行を委任された住発株式会社から土地付区分建物売買契約書及び本件マンション規約書(旧規約についてのもの)を見せられ、説明を受けた上で売買契約を結んだ。

(2) 右売買契約書及び規約書には、本件マンションの敷地、外壁・屋上、塔屋外壁に被告のための専用使用権を設定する旨が明記されていたが、敷地だけは使用目的に限定がないものの、その余は広告物その他の施設設置に目的が制限されている。

(3) 被告は、本件マンション設計時から自己の専有する一階店舗部分でサウナ・理髪店等の営業を行うことを予定し、屋上に前記の「サウナ」の広告塔を、階段に各店舗の看板を設置し、敷地を各店舗営業用の駐車場にすることを計画し、右のとおり、売買契約書、規約書中にこれらの部分の専用使用権を被告に留保する条項を挿入し、本件マンションの建築分譲後、右計画に従つて各専用使用部分を使つており、他に前記のクーリングタワー等専有部分たる店舗部分の維持に必要な付属機器類を設置するのに用いている。

(4) 被告の専用使用権設定について特段の対価は支払われなかつたが、被告代表者の意識としては、その代償として同種マンションに比し、本件各区分建物の分譲価格を幾分低めに設定した。その後、専用使用に対する使用料等の対価は授受されず、従前無償であつたが、右売買契約書及び規約書中対価についての条項はなく、また、分譲の際、右住発株式会社からも被告からも無償であるとの説明もなかつた。また、被告は、専用使用部分の公租公課の全額を負担するなど特別な負担をしたことが一切なく、かえつて、他の区分所有者が被告の専用使用部分の公租公課・維持管理費を共有持分によつて平等に負担してきた。

(5) 二階以上の専有部分の区分所有者(被告を除く三四世帯)及び居住者は、敷地全部を被告に専用使用されて自転車置場がないため、防災上問題があることを承知しながらマンション内に自転車を持ち込む等相当の不便を忍んでおり、敷地に自転車置場の設置を強く望んできており、また管理用自動車、緊急自動車、訪問者のために自動車駐車場が確保されることを望んできた。

2  そこでまず、建物の区分所有等に関する法律第三一条一項に後段にいう「特別の影響」の意義について判断する。

同項後段の規定は、規約の設定等が「一部の区分所有者の権利に特別の影響」を及ぼす場合にのみその区分所有者の承諾を要するものとすることによつて、一般の区分所有者が受ける利益とこれによつて一部の区分所有者が影響を受ける利益との調和を図つたものである。このような同項後段の立法趣旨からすれば、「特別の影響」とは、規約の設定・変更の必要性ないしこれにより区分所有者全員が受ける利益と対比して、一部の区分所有者の受ける不利益が当該区分所有者の受忍すべき限度を越えていることを意味すると解すべきである。

3  そこで、本件についてみるに、前記認定の事実によれば、本件マンションの専用使用権は、被告の設計当初からの計画に基づき被告の専有部分の使用に付従して設定、行使され、直接の対価授受はないものの、分譲価格の設定、管理費用の負担の点からある程度の経済的調整はされているものと評価される。

しかし、他方、敷地はもつぱら被告の駐車場八台分として使用され自転車置場がないため、原告の組合員のうち被告を除く各区分所有者三四人は防災上問題があることを承知しながら本件マンション内に自転車を持ち込み廊下に置いている状態であり、また、管理や補修のための業者の自動車を置くスペースがなく路上駐車せざるを得ない状態であつて、敷地の駐車場八台分のうち四台分は、原告の組合員たる区分所有者全員が自転車置場、管理用自動車や緊急自動車の駐車場として使用する必要性が大きい。これに対し、被告は、右土地部分を被告自身とその営業のための駐車場(四台分)として専用使用しているところ、原告組合員の右必要のためにこの部分の専用使用を廃止することは、被告の営業にとつて不利益になることが予想されるものの、本件マンション南側に四台分の駐車場が残ることからみて、被告に格別の不利益が及ぶとまではいいがたい。

また、被告は、従来本件駐車場や本件マンションの外壁等を無償で専用使用してきたが、もともと旧規約には専用使用について対価の条項はなく、各区分建物の買受人は分譲の際被告から無償である旨の説明を受けていないことに照らせば、新規約によつて被告の専用使用権につき総会決議があれば有償化できる旨規定しているのは、原告の一般の区分所有者と専用使用権者たる被告の利益の合理的な調整を図ることを目的としたものであつて、高度の必要性と合理性がある。そして、新規約に基づき被告の専用使用権を有償化した本件決議は、被告が分譲価格の設定を幾分低めにしたこと等によりある程度経済的調整がなされていたことを考慮に入れても、被告が無償による専用使用を開始してから本件決議まで既に一九年が経過しており、この間他の区分所有者が被告の専用使用部分の公租公課や維持管理費を共有持分割合で平等に負担してきたことからすると、本件決議当時には被告とその他の区分所有者との間に著しい経済的不均衡を生じていたことが明らかであり、したがつて、右時点で右専用使用権を有償化したのは、原告の一般区分所有者と専用使用権者たる被告との右のような経済的不均衡を是正して合理的なものに改めるものであつて、十分な必要性と合理性があり、しかも、本件決議による有償化の額は社会通念上相当と認められる。これに対し、被告が従前専用使用を無償でしてきたのは分譲価格の設定をやや低めにしたことによりある程度経済的な調整があつたことも一因であり、その意味で被告の右専用使用は実質的には完全無償ではなかつたと言いうることに照らせば、新規約及びこれに基づく本件決議によつて専用使用権が有償化されても、被告はこれまで著しく低い実質上の負担しかなかつたものを専用使用という利益に見合つた合理的な負担をすることに改めるだけのことであつて、格別不利益を被ることはないというべきである。(なお、被告は、仮に専用使用の無償性が旧規約に基づくものでなかつたとしても、無償の専用使用を一〇年以上にわたつて継続してきたのであるから、無償の専用使用権を時効取得したとも主張するが、主張自体失当である。)

してみると、新規約の設定及び新規約に基づく本件決議は高度の必要性があり、これにより原告の区分所有者全員が受ける利益が大きいのに対し、被告が新規約の設定によつて専用使用について格別の不利益を被るものとはいえず、仮に被告が不利益を被ることがあつてもそれは区分所有者として受忍すべき限度内のものということができる。したがつて、新規約及びこれに基づく本件決議は被告の専用使用権に特別に影響を及ぼすものではないから、被告の承諾は不要である。

四  そうすると、被告が、別紙第一物件目録一記載の土地を平成五年一月一日以降駐車場として専用使用を継続することは、右土地を平成五年一月一日以降駐車場として専用使用してはならないという本件決議上の義務に違反し、ひいては本件マンションの敷地を通常の用法に従つて使用しなければならないとする新規約上の義務に違反するものである。

したがつて、原告は被告に対し、被告の右規約違反行為につき、これに差し止めることを求めることができるところ、本件決議において被告に平成四年一二月三一日限り右土地を駐車場として使用することを停止する旨求めたのであるから、民事訴訟法四六条の規定に基づき、原告の名において、右差止請求をすることができる。

五  また、被告が、別紙第一物件目録一記載の土地部分に別紙第二物件目録一、二記載の物件を設置することは、敷地たる右土地部分を通路という通常の用法に従つて使用しなければならないとする新規約上の義務に違反する。

したがつて、原告は被告に対し、被告の右違反行為につき、その行為の結果たる右物件を撤去することを求めることができるところ、本件決議において被告に平成四年一二月三一日限り右物件を撤去する旨求めたのであるから、民事訴訟法四六条の規定に基づき、原告の名において、右撤去請求をすることができる。

六  さらに、原告は、被告の右の規約違反行為につき、本件決議において使用損害金の額とその支払時期について定め、これに基づき被告に対し使用損害金を請求しているので、この点についても判断する。

一般に、規約違反行為をした区分所有者に対する制裁措置の一つとして違約金を課することは、規約に特に規定がない限りできないと解される。本件において、新規約には規約違反行為に対して違約金を課することができる旨の直接の根拠規定はないものの、第五八条において、規約、法令のいずれにも定めがない事項については総会の決議によつて定める旨規定されており、損害賠償額及びその支払時期についての本件決議は新規約の右条項によるものである。しかも本件決議は区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数決によるものであつて、規約の設定等に必要な集会決議の要件を満たしている。そして、本件決議によつて定められた使用損害金の額及びその支払時期は被告による右違反の態様や程度に照らし相当と認められる。そうすると、損害賠償額及びその支払時期に関する本件決議は新規約に基づくものであつて有効と解するのが相当である。

したがつて、原告は、民事訴訟法四六条の規定に基づき、原告の名において、被告に対し本件決議に基づく使用損害金の請求をすることができる。

七  右の事実によれば、原告の請求はいずれも理由がある(ただし、請求第一、二項については、年五分の割合による遅延損害金の支払の始期は各支払日の翌日である各月二六日からであつて、各支払日は含まないから、その限度で理由がない。)。

なお、請求第三項(主文第三ないし六項と同旨)についての仮執行宣言は、必要性がないからこれを付さない。

(裁判官 畠山 稔)

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